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東京地方裁判所 平成4年(ワ)15334号 判決

イタリア国 フィレンツェ ビア トルナボニ 七三/ロスソ

原告

グッチオ グッチ ソシエテ ペル アチオニ

右代表者

マウリツィオ グッチ

東京都千代田区紀尾井町三番一二号 紀尾井町ビル七階

原告

株式会社グッチ ジャパン

右代表者代表取締役

小山進

右原告ら訴訟代理人弁護士

大岸聡

内藤篤

河井聡

新川麻

右訴訟復代理人弁護士

竹原隆信

大阪市中央区北浜一丁目三番二号 北浜アークビルニF

被告

エルマージュ・インターナショナル株式会社

右代表者代表取締役

高城佐知子

大阪市阿倍野区北畠三丁目三番四四号

被告

高城佐知子

右被告ら訴訟代理人弁護士

梅本弘

片井輝夫

石井義人

池田佳史

ハイチ国

ポート・オー・プランス リュー・デ・トゥシュ

被告エルマージュ・インターナショナル株式会社補助参加人

パオロ・グッチ

主文

1  被告エルマージュ・インターナショナル株式会社は、別紙標章目録(1)ないし(12)記載の各標章を別紙商品目録記載の商品、同商品の包装、飾り又は同商品に関する広告、定価表に付して使用してはならない。

2  被告エルマージュ・インターナショナル株式会社は、別紙標章目録(1)ないし(12)記載の各標章を付した別紙商品目録記載の商品を輸入、販売又は展示してはならない。

3  被告エルマージュ・インターナショナル株式会社は、別紙標章目録(1)ないし(12)記載の各標章を、看板、店内外装飾、マット、名刺、シール、広告、定価表、取引書類に付して自己の営業表示として使用してはならない。

4  被告エルマージュ・インターナショナル株式会社は、別紙標章目録(1)ないし(12)記載の各標章を付した別紙商品目録記載の商品、包装紙、広告、定価表、取引書類、看板、店内外装飾、マット、名刺及びシールを廃棄せよ。

5  被告らは、連帯して、原告グッチオ グッチ ソシエテ ペル アチオニに対して金六二一万一三八七円、原告株式会社グッチ ジャパンに対して金三三万四五四四円及びこれらに対する平成四年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

6  原告らのその余の請求を棄却する。

7  訴訟費用は、原告グッチオ グッチ ソシエテ ペル アチオニと被告らとの間ではこれを二分し、その一を原告グッチオ グッチ ソシエテ ペル アチオニの、その余を被告らの負担とし、原告株式会社グッチジャパンと被告らとの間ではこれを四分し、その一を原告株式会社グッチ ジャパンの、その余を被告らの負担とし、参加によって生じた費用は、これを二分し、その一を補助参加人の、その余を原告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文第1項ないし第4項と同旨。

2  被告らは、連帯して、原告グッチオ グッチ ソシエテ ペル アチオニ(以下「原告グッチオ グッチ」という。)に対して金四九八三万四一六五円、原告株式会社グッチ ジャパン(以下「原告グッチ ジャパン」という。)に対して金一一九六万一九四四円及びこれらに対する平成四年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  請求原因

一  当事者

1  原告ら

(一) 原告グッチオ グッチは、イタリア国法に基づき設立された法人であり、皮革製品、衣料品等の製造販売並びに商標管理等を業とする会社である。

原告グッチ ジャパンは、皮革製品、衣料品等の販売並びに輸出入等を主たる目的とする株式会社である。

(二) 原告らは、「GUCCI」又は「グッチ」なる文字を用いた表示(以下「原告表示」と総称することがある。)を、原告グッチオ グッチが製造販売する皮革製品、ハンドバッグ、、ショルダーバッグ、旅行かばん、靴、衣料品、装身品等の商品(以下「原告商品」という。)の商品表示及び原告らの営業活動についての営業表示として使用している。

2  被告ら

(一) 被告エルマージュ・インターナショナル株式会社は、皮革製品、装身用アクセサリー、洋品雑貨などの販売を主たる目的とする株式会社である。

(二) 被告高城佐知子は、被告会社の設立以来、その代表取締役の地位にあるものである。

二  不正競争行為

1  原告表示の周知性

(一) 原告グッチオ グッチの営業は、一九二二年イタリアのフィレンツェでの革製品の製造販売に始まり、その後原告グッチオ グッチは、靴、衣料品、装身品などの製造販売も行うようになり、「GUCCI」の表示は、原告商品を示す商品表示として、また原告グッチオ グッチ及び関連会社の営業を示す営業表示として、全世界で著名、周知となった。

(二)(1) 原告グッチオ グッチは、昭和三九年頃から日本においても、訴外株式会社サンモトヤマ(以下「訴外サンモトヤマ」という。)を日本の総販売代理店に指名し、原告商品の輸入販売を継続して行ってきた。

原告グッチオ グッチと訴外サンモトヤマは、グッチのブランドイメージを確立するために強力な宣伝活動を行い、その結果、原告商品は、各種ファッション雑誌及び一流カタログなどで、イタリアの高級品、世界の一流品として紹介されるほどになった。

(2) その後、平成二年八月以降は、同年四月に設立された原告グッチ ジャパンが、訴外サンモトヤマから原告商品の輸入、販売業務の一切を引き継ぎ、現在、原告グッチ ジャパンは、原告グッチオ グッチの日本総代理店として、全国の有名百貨店にブティックを出店し、また訴外サンモトヤマとの間に日本の有名ホテルにブティックのフランチャイズ契約を締結し、原告商品の輸入と全国規模での販売を展開している。

原告グッチ ジャパンは、平成二年には約一億七〇〇〇万円、平成三年には約一億四九七〇万円、平成四年には約八〇〇〇万円の広告宣伝費を支出しており、売上げも、平成三年には約二六億円、平成四年には約三〇億円に上っている。また、平成三年三月時点において、原告グッチ ジャパンは、グッチ製品のみを販売する専門店を、東京、横浜、名古屋、大阪、京都、札幌、福岡など全国の主要都市に設置し、全国的販売網を確立していた。

(3) これらの活動の結果、原告表示は、原告商品を表示するものとして、また原告グッチオ グッチ又は原告グッチ ジャパンを含む関連企業による営業を表示するものとして、遅くとも平成三年一一月一三日までには日本全国において広く認識されるに至っており、今日に至るまでこの周知性を保持し続けている。

2  被告会社による標章の使用

(一) 営業表示

被告会社は、東京都港区南青山五丁目一一番一五号H&Mミナミアオヤマウエスト内の「パオログッチ青山」等において、平成三年一一月一三日以降、自社が国外から輸入する別紙商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)を販売する営業で、自らの営業を表示するものとして、看板、店内外装飾、マット、名刺、シール、広告、定価表、取引書類に別紙標章目録(1)ないし(12)記 載の標章(以下、別紙標章目録(1)記載の標章を「被告標章(1)」といい、これに準じて、別紙標章目録(2)ないし(12)の番号に応じて、各標章を「被告標章(2)」、「被告標章(3)」などという。また被告標章(1)ないし(12)を単に「被告標章」と総称することがある。)を使用している。

(二) 商品表示

被告会社は、平成三年一一月一三日以降、被告標章が付された被告商品を販売している。

3  被告標章と原告表示の類似性

(一) 被告標章は、別紙標章目録(1)ないし(5)の「PAOLO GUCCI」の系統に属するもの(以下、原告の主張において「被告標章A」と総称することがある。)と、同目録(6)ないし(12)の「PG DESIGNED BY PAOLO GUCCI」の系統に属するもの(以下、原告の主張において「被告標章B」と総称することがある。)とに分類できる。

(二) 被告標章Aは、著名な原告表示である「GUCCI」又は「グッチ」に「PAOLO」又は「パオロ」を加えたものにすぎず、原告表示が極めて著名であるために、被告標章Aの要部は「GUCCI」、「グッチ」の部分であり、この要部からは容易に「GUCCI」の略称、称呼、観念が発生する。

したがって、原告表示と各被告標章Aとは類似する。

(三) 被告標章Bは、いずれも「PAOLO GUCCI」の前に、「DESIGNED BY」、「PG DESIGNED BY」又は「PAOLO DESIGNED BY」等の文言を加えたものである。それらは、「パオログッチによりデザインされた」、「パオログッチによりデザインされたPG」、「パオログッチによりデザインされたパオロ」、等の意味が生じるが、「デザインされた」という記述的説明、「PG」ないし「パオロ」の文字の無名性に起因して、被告標章Bにおいても要部は「GUCCI」の部分であり、右要部から「GUCCI」の称呼及び観念を生じる。

したがって、原告表示と被告標章Bとは類似する。

4  右のような原告表示と被告標章との類似性からすれば、被告会社による被告標章の被告商品への使用は、一般の取引者、需要者において、被告商品が原告商品であるとの誤認混同を招き、また被告会社による被告標章の営業表示としての使用は、被告会社があたかも原告グッチオ グッチの関連企業又は原告グッチオ グッチから許諾を受けた代理店であるとの誤認混同を招くことは明らかである。特に原告商品のようなブランド商品には、複数の商品ラインを有して価格帯を分けて差別化を図っているものも多い。したがって、「パオログッチ」というブランドを一般人が見た場合、「グッチ」の新しい商品ラインではないかと誤認混同するおそれがある。

現実に、被告会社が平成三年一一月一三日に行ったレセプション及び新聞広告の後、原告グッチ ジャパンのもとに、報道機関などから原告グッチ ジャパンと被告会社との同一性を問い合わせる相当数の電話があり、原告グッチ ジャパンは、被告会社との同一性を否定する新聞広告及び新聞発表を余儀なくされた。更に、一部の新聞では被告会社を「グッチ」として報道するなどの誤認混同も生じた。

右のような現実の誤認混同及び誤認混同のおそれの存在によれば、原告らの営業上の利益が害されるおそれがある。

三  商標権侵害行為

1  原告グッチオ グッチは、別紙商標目録一ないし五記載のとおり、「GUCCI」の欧文字からなる標章について商標権(以下「原告商標権」と総称し、その商標を「原告商標」と総称する。)を有している。

2  被告会社は、原告商標権の指定商品に属する毛皮コート、毛皮えり巻、毛皮帽子、毛皮手袋、カフス、スカーフ及びネクタイ等(商品区分第一七類、ただし、平成三年政令第二九九号、平成三年通商産業省令第七〇号による改正前の商標法施行令、商標法施行規則の各別表によるもの。以下、単に「旧第何類」とのみ表記する。)、皮革製ないし人工皮革製のハンドバッグ、ボストンバッグ、アタッシュケース、旅行かばん、化粧品バッグ、ビジネスバッグ、財布、札入れ、キーホルダー及びベルト等のレザー類及びイヤリング、ネックレス、ブレスレット及びブローチ等のコスチュームジュエリー(旧第一三類又は旧第二一類)、宝石類(旧第二一類)及び時計類(旧第二三類)に被告標章を付して販売している。

3  被告会社は、右2の商品の販売について、看板、店内外装飾、マット、名刺、シールなどの広告、定価表、取引書類に被告標章を付して展示、頒布し、これら標章を商標として使用している。

4  前記二3のとおり、被告標章は、原告商標と類似している。

四  被告会社の故意過失

1  被告会社は、被告商品の販売を行うために、平成二年一二月に設立された会社であるが、「GUCCI」又は「グッチ」が原告の商品表示、営業表示として著名であるのに、被告標章を商品表示又は営業表示として使用して被告商品の販売を開始したもので、不正競争を行い、原告らの利益を侵害するについて、故意又は過失があった。

2  なお被告会社は、原告らから、平成三年一一月二五日、被告標章の使用が原告らの権利を侵害するものである旨の警告を書面により受けている。

五  原告らの損害

原告らが被告会社の不正競争行為又は商標権侵害行為により被った損害は、次のとおりである。

1  原告グッチオ グッチの損害以下の合計五三六三万〇六四一円

(一) 混同性調査に要した費用 九六八万九二一〇円

(二) 弁護士報酬(仮処分、仮処分執行及び本訴追行)

二八二二万六〇〇〇円

(三) 弁護士事務所費用 三五〇万四〇四四円

(四) 使用料相当額の損害 二二一万一三八七円

被告会社は、パオログッチ青山店において、平成三年一一月一三日から平成四年九月末日までの間に、合計五四九万五〇八九円相当の被告標章を付した被告商品を販売した。

また被告会社本社は、平成三年一一月から平成四年八月末までの間に、国内向け販売及び円建て輸出として、合計一九五四万三九二五円の被告標章を付した被告商品を販売した。

更に、被告会社は、米国ドル建てで、平成三年三月一七日に二万七四九八ドル、平成四年二月一九日に一万四五五〇ドル、平成四年三月三一日に六四四七ドルの合計四万八四九五ドルの被告標章を付した被告商品を輸出しており、右のドル建て販売分について、各販売時の換算レートで円に換算した販売額は合計六五五万二二三八円となる。

以上を合計した被告会社の被告商品販売合計金額は、三一五九万一二五二円である。

そして通常の使用料率については、七パーセントが相当であるから、通常の使用料相当の損害金は、右売上高合計の七パーセントに当たる二二一万一三八七円となる。

(五) 信用毀損による無形損害 一〇〇〇万円

原告グッチオ グッチは、日本国内でも著名な世界有数のファッション製品メーカーであり、その商品に対する消費者の高級品質イメージ、高級ファッションイメージを保持、向上させるべく、多大な努力を払ってきている。しかるに、被告会社が原告らの製造販売する原告商品と誤認混同される被告商品を多数販売したことにより、原告商品に対して消費者が抱いていた高級品イメージが著しく損なわれ、それにより原告グッチオ グッチが毀損された営業上の信用と名誉を金銭に評価すれば、一〇〇〇万円を下らない。

2  原告グッチ ジャパンの損害 以下の合計一一九六万一九四四円

(一) 警告のための広告費用 一九六万一九四四円

原告グッチ ジャパンが、被告会社の違法行為に対し日本経済新聞などに警告のための広告を掲載した費用。

(二) 信用毀損による無形損害 一〇〇〇万円

被告会社が原告商品と誤認混同される被告商品を販売したことにより、右1(五)同様の信用毀損による損害を原告グッチ ジャパンも被っており、これを金銭に評価すれば、一〇〇〇万円を下らない。

六  被告高城の責任

被告高城は、被告会社の代表者として職務の遂行に際し、前記の被告会社の不正競争行為及び商標権侵害行為を行った。

また何らの調査などを行うことなく、漫然被告会社をして、被告商品を販売させ、被告標章を営業表示として使用させた行為について、重過失または故意が認められる。

したがって被告高城は、被告会社と連帯して原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。

七  よって、原告らは、

1  被告会社に対し、主位的に不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、また原告グッチオ グッチは右に加えて予備的に商標法三六条、三七条にも基づいて、

(一) 被告標章を被告商品、被告商品の包装、飾り又は被告商品に関する広告、定価表に付して使用することの差止め、

(二) 被告標章を付した被告商品の輸入、販売又は展示することの差止め、

(三) 被告標章を、看板、店内外装飾、マット、名刺、シール、広告、定価表、取引書類に付して自己の営業表示として使用することの差止め、

(四) 被告標章を付した被告商品、包装紙、広告、定価表、取引書類、看板、店内外装飾、マット、名刺、シールの廃棄、

2  被告らに対し、主位的に不正競争防止法二条一項一号、四条、五条二項一号、民法七一九条、原告グッチオ グッチにつき予備的に民法七〇九条、商標法三八条二項、被告高城につき予備的に商法二六六条の三に基づいて、連帯して、原告グッチオ グッチに対して前記五1の損害金合計五三六三万〇六四一円の内金四九八三万四一六五円、原告グッチ ジャパンに対して前記五2の損害金合計一一九六万一九四四円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成四年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払い、

をそれぞれ求める。

第三  請求原因に対する認否及び被告らの主張

一  請求原因一1は知らない。同2は認める。

二  請求原因二1は知らない。同2のうち、被告会社が、東京地方裁判所の仮処分決定を受けるまで被告標章を被告商品の商品表示及び被告会社の営業表示として使用していたことは認める。

三  請求原因二3、4は否認する。

「PAOLO GUCCI」と「GUCCI」、及び「パオログッチ」と「グッチ」は、それぞれ明白に異なる標章であり、類似性はない。まして「PAOLO GUCCI」が他の「PG」マークや「DESIGNED BY PAOLO GUCCI」の文字と一体化され(被告標章(4)ないし(6)、同(9))、更にクレスト中に一体化されて(被告標章(7)、(8)、(12))表示されるときは、両者が商標法上類似の関係に立ったり、不正競争防止法上誤認混同を生ずることはない。

実際に「PAOLO GUCCI」(旧第一五類)、「PAOLOGUCCI」(旧第二一類)、「UNO by PAOLO GUCCI」(旧第一六類)等の商標が登録されている。

四  請求原因三1ないし3は認め、同4は否認する。

五  請求原因四1は否認する。同2は認める。

六  請求原因五1は、同(四)中の被告会社のパオログッチ青山店における被告商品の売上金額及び被告会社本社の被告商品の売上金額が、それぞれ原告らが主張する円、米国ドルによる金額であることは認めるが、その余は否認する。米国ドルの円換算率は、一ドル一〇五円によるべきであり、通常の使用料率は売上代金の五パーセントが相当である。

同2は、否認する。

七  請求原因六は否認する。

被告高城は、取締役会の決議にしたがって、代表取締役として業務を執行したにすぎない。よって、被告高城は被告会社の機関として業務を行ったもので、会社と独立した個人として被告会社の業務に対して注意義務を負う理由はないから、責任を負ういわれもなく、不正競争防止法、商標法、民法七〇九条、七一九条に基づく原告らの本訴請求は失当である。

また商法二六六条の三第一項にいう、「悪意又は重過失」とは、第三者に損害を及ぼしかねない状態の下で、会社に対する任務懈怠であることを知っていること又は著しく注意を欠いたためそれを知らなかったことであるところ、補助参加人は、被告高城に対して、被告商品が不正競争防止法や商標法に違反しないことを保証していた。同姓のブランドは従来から多数あり、必ずしも共同、提携関係があるわけではないにもかかわらず、問題なく営業活動を行っている。しかも被告商品は、そのデザイナーであるパオロ・グッチの名前を使用した標章を商品につけるもので、同姓のブランドと変わりがないものであるから、パオロ・グッチ名を使用することには何ら問題がないという説明がなされ、十分に説得的であった。

このため被告会社は、問題がないとして営業活動を開始したところ、原告らからの警告がなされることにより、法的に困難な問題に直面したが、被告会社は補助参加人から、一定額以上の商品を購入する義務を負っており、原告らからの通知だけによって営業を中止することはできなかった。そして被告会社は、原告らからの警告の後は、紛争を避けるために被告商品の販売を縮小し、やがて撤退した。

よって、被告高城は被告商品の販売が不正競争防止法又は商標法に違反しているという事実を認識していなかったものである。またその違反の事実についての判断は、高度に困難な法的判断であって、被告高城が著しく注意義務を怠り、販売開始及びその継続を指示したとは認められないから、同人には重過失はないというべきである。

八  請求原因七は争う。

第四  抗弁(自己氏名の使用)

被告標章を付した商品は、すべて補助参加人がデザインし、その許諾の下に、訴外パウロ・グッチ・ディストリビューターズ・エヌ・ヴェーが製造し、被告会社に販売したものである。補助参加人は、不正の目的なく、普通の方法で被告商品に自己の氏名を付しているから、不正競争防止法一一条一項二号により同法三条ないし八条の適用はなく、商標法二六条一項一号により、商標権の効力が及ばないものとされ、被告商品を流通過程で扱う被告会社の販売行為等も適法である。

第五  抗弁に対する認否、主張

補助参加人が、被告商品をデザインし、その許諾の下に、訴外パウロ・グッチ・ディストリビューターズ・エヌ・ヴェーが製造し、被告会社に販売したものであることは知らない、その余は争う。

被告会社による被告商品の使用は、日本のみならず世界的にも原告らの営業表示、商品表示として著名である「GUCCI」又は「グッチ」なる文字を用いた原告らの表示と類似した標章を用い、原告らの営業と同じ装身品、衣料品、皮革製品等の販売業を営むことにより、原告らの商品又は営業活動と被告会社の商品又は営業活動との間に誤認混同を生ぜしめ、その結果自己の販路を拡大し、不当に利益を得ようとする不正競争目的に基づくものである。

第六  証拠関係

証拠関係は本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一1  成立に争いのない甲第一号証ないし甲第三号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三六号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因一1及び原告表示が付された原告商品には、各種かばん類、財布、時計、スカーフ、ネクタイ、香水、化粧品を含むことが認められる。

2  請求原因一2は当事者間に争いがない。

二1  前掲甲第一号証ないし甲第三号証、甲第三六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告グッチオ グッチは、昭和三九年頃日本における自社製品の販売を開始し、当時は訴外サンモトヤマを日本における総販売代理店として、原告商品を輸入し販売していたこと、訴外サンモトヤマと原告グッチオ グッチは、日本国内において宣伝活動を行うとともに販売活動を続け、その結果、原告商品は、各種ファッション雑誌及び一流品カタログなどで、イタリアの高級品、世界の一流品として紹介されるようになり、その後平成二年八月以降は、同年四月に設立された原告グッチジャパンが、訴外サンモトヤマから原告商品の輸入、販売業務の一切を引き継いて同業務を行うようになったこと、原告グッチ ジャパンは、原告グッチオ グッチの日本総代理店として、平成三年の時点で日本橋、玉川、横浜、大阪、京都の高島屋や、新宿伊勢丹、日本橋三越、名古屋松坂屋、大阪、神戸の大丸、広島、松山のそごうなどの全国有名百貨店にグッチブティックを有したり、訴外サンモトヤマとの間のフランチャイズ契約により帝国ホテル、大阪ニューオータニなど国内有名ホテルにブティックを経営させ、原告商品の輸入とその全国規模での販売を展開していること、この間、原告グッチ ジャパンは、広告宣伝費として、平成二年には約一億〇七〇〇万円、平成三年には約一億四九七〇万円支出していること、平成三年五月二三日に講談社から発行された「九一年世界の一流品大図鑑」と題された雑誌において、高級ブランド品の一つとして原告商品の時計、靴、スカーフ、ネクタイ、バッグ、小物などが紹介されていることが認められ、このような事業展開や宣伝広告等の結果、遅くとも平成三年一一月には「グッチ」ないし「GUCCI」の標章が、原告商品の商品表示として、また原告らの営業表示として、我が国一般社会において周知のみならず著名なものとなっていたものと認められる。

2  請求原因二2のうち、被告会社が、東京地方裁判所の仮処分決定を受けるまで被告標章を被告商品の商品表示及び被告会社の営業表示として使用していたことは当事者間に争いがなく、この事実に成立に争いのない甲第五号証、甲第八号証、甲第一六号証の一ないし五、甲第三三号証ないし甲第三五号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証、平成三年一一月二二日に「パオログッチ青山」店入口に敷かれたマット及び同店入口を撮影した写真であることに争いのない甲第七号証の一、二、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一八号証、甲第一九号証、被告販売商品及び被告販売商品の包装の写真であることに争いのない検甲第一号証ないし検甲第七号証を総合すれば、請求原因二2の事実が認められる。

3  請求原因二3について判断する。

(一)  被告標章(1)は、別紙標章目録(1)記載のとおり、片仮名で、「パオログッチ」の文字を横書きにしてなるもの、被告標章(2)は、被告標章(1)の「パオロ」と「グッチ」の間に中黒点を入れ「パオロ・グッチ」としたもの、被告標章(3)は、欧文字の「PAOLO GUCCI」を横書きにし、右の文字列を挟むように上下に二本の線を引いてなるもの、被告標章(4)は、被告標章(3)の「PAOLO」と「GUCCI」の間に〈省略〉という図形を配してなるもの、被告標章(5)は、被告標章(4)を白抜きにしてなるものである。

被告標章(1)ないし(5)の内、「パオロ」又は「PAOLO」の部分については、被告商品の消費者である一般社会人は、外国人の人名であることは認識するものの、それ以上に取り立てて強い印象を受けるものでないことは当裁判所に顕著である。また、被告標章(4)及び(5)のうち〈省略〉という図形については、詳細に検討すれば「P」の文字と「G」の文字を組み合わせたモノグラムを長円形の枠で囲んだものと判別できないではないが、一般社会人にとっては馴染みもなく、単なる理解困難な図形としてのみ認識されることも少なくないもので、そのような場合は特段の称呼も生じず、外観においても、取り立てて目立つものとも認められない。これに対し、前記二1認定のように、原告表示が我が国一般社会において原告らの商品表示及び営業表示として著名であることに照らせば、被告標章(1)ないし(5)の内、「グッチ」又は「GUCCI」の部分は、被告商標(1)ないし(5)に接した需要者がこの部分に着目して、被告商標(1)ないし(5)の付された商品の出所、それらを付して行われる営業の主体を識別することが多いものと認められる。

したがって、被告商標(1)ないし(5)の要部が少なくとも「グッチ」又は「GUCCI」の部分にあると認められるところ、右被告標章(1)ないし(5)の要部はいずれも「グッチ」又は「GUCCI」の原告表示と同一であり、その結果、全体として観察しても、被告標章(1)ないし(5)と原告表示とは類似するものと認められる。

(二)  被告標章(6)は、別紙標章目録(6)のとおり、欧文字の「PAOLO GUCCI」を横書きにしたものの中間に、大きな〈省略〉という図形を配し、更にその上部に「PAOLO GUCCI」とほぼ同じ大きさで欧文字の「DESI GNED BY」を横書きにし、全体を長円形の枠で囲うとともに、「PAOLO GUCCI」の文字列を挟むように上下に二本の線を配してなるものである。

被告標章(7)は、別紙標章目録(7)のとおり、上下に長い略長方形の下方の二隅を丸く落とし、下辺の中央部をわずかに突出させた西洋風の楯形の、上部に王冠に西洋風の鎧の頭部の部分を組み合わせたものを、左右に植物の葉状のものを組み合わせたものを、下方に左右対称にうねるリボン状のものを、それぞれ配した全体形状の中で、この下方のリボン状のものの中に欧文字の「PAOLO GUCCI」を横書きに配し、前記楯形の上部約三分の一の部分の中央に大きな〈省略〉という図形を、その下方楯形の下部約三分の二の部分の左上方から右下方へ右下がりに欧文字の「DESIGNED BY」を横書きに、それぞれ配してなるものである。

被告標章(8)は、別紙標章目録(8)のとおり、楯形の上部約三分の一の部分に〈省略〉の図形ではなく、欧文字の「PAOLO」が横書きに配されている外はほぼ被告標章(7)と同じ構成からなるものである。

更に、被告標章(9)は、別紙標章目録(9)のとおり、いずれもほぼ同じ大きさの欧文字で、上から、「~PAOLO~」、「DESIGNED BY」、「PAOLO GUCCI」と三段に分けて横書きに表わし、「PAOLO」と「GUCCI」の間に〈省略〉の図形を配したもの、被告標章(10)は、別紙標章目録(10)のとおり、「〈省略〉」の図形を長円形の枠で囲んだものの下方にほぼ同じ大きさの欧文字で、上から、「DESIGNED BY」、「PAOLOGUCCI」と二段に分けて横書きに記載してなるもの、被告標章(11)は、一方の面に欧文字で「DESIGNED BY」と、他方の面に欧文字で「PAOLO GUCCI」と、いずれも横書きで表示してなるものである。

被告標章(12)は、別紙標章目録(12)のとおり、上下に長い略長方形の下方の二隅を丸く落とし、下辺の中央部をわずかに突出させた西洋風の楯形の、上部に王冠に西洋風の鎧の頭部の部分を組み合わせたものを、左右に植物の葉状のものを組み合わせたものを配し、それらの全体を下方にバックルの付いたベルトで丸く囲むように表わし、その下方に左右対称にうねるリボンを、前記ベルトの輪の左右に、前記うねったリボンの左右端部に立上り、ベルトの輪を支えるライオンと一角獣を配した形状の中で、前記下方のリボン状のものの中央部に欧文字の「PAOLO GUCCI」を、前記楯形の上部約三分の一の中央に〈省略〉の図形を、楯形の下部約三分の二の部分の左上方から右下がりに欧文字の「DESIGNED BY」をそれぞれ配してなるものである。

そして、被告標章(6)ないし(12)の内、「DESIGNED BY」の部分は、我が国における英語の普及度を考慮すると、被告商品の需要者である一般社会人において「~によってデザインされた」という意味を正しく理解する場合が相当多いものの、他方右のような英語の意味を正しく理解できない場合も少なくないものと認められるところ、右の意味を正しく理解した者はその後にデザイナーの人名あるいは社名が続き、それが各標章の付された商品の出所を示すものと理解することができ、右の意味を正しく理解できない者は意味不明の外国語として印象が弱く、いずれにせよこの部分を各標章が付された商品の出所、各標章を使用して行なわれる営業の営業主体と識別する部分と認識することはないものと認められる。

また被告標章(6)ないし(12)の内、「PAOLO」の部分については、一般社会人は外国人の人名であることは認識するもののそれ以上に取り立てて強い印象を受けるものでないことは、前記(一)に判断したところと同様である。被告標章(6)、(7)、(9)、(10)、(12)の内〈省略〉の図形は、特に被告標章(6)、(7)、(10)においてはその配置、大きさ等から見て目立つものであるが、一般社会人にとっては馴染みがなく、理解困難な図形として認識されることも少なくないものと認められる。

更に被告標章(7)、(8)、(12)の内、全体的形状を構成する楯形、その上部の王冠、鎧、左右の植物の葉状のもの、下部のリボン等は、西洋の紋章等のありふれた枠組として我が国において知られているところであり、取り立てての特徴もないので、これらの部分が各標章が付された商品の出所や、各標章を使用して行われる営業の主体を表示する部分と認識されることはないものと認められる。被告標章(12)中のベルト部分は構成要素の多い被告標章(12)の中ではほとんど目立つものではないが、左右のライオンと一角獣はその大きさもあいまって、被告標章(12)の中では目立つ部分である。

一方、前記二1認定のように、原告表示が我が国の一般社会において原告らの商品表示ないし原告らの営業表示として著名であることに照らせば、被告標章(6)ないし(12)の内、「GUCCI」の部分は、被告標章(6)ないし(12)に接した需要者がこの部分に着目してそれらの標章が付された商品の出所、それらの標章を使用して行なわれる営業の主体を識別することが多いものと認められる。したがって被告標章(6)ないし(12)の要部が、他の部分にあるかどうかはともかく、少なくとも「GUCCI」の部分にはあるものと認められるところ、被告標章(6)ないし(12)の右要部はいずれも原告表示の「GUCCI」と同一であり、原告表示「グッチ」とは称呼を同一にするものであり、その結果、全体として観察しても、被告標章(6)ないし(12)と原告表示とは類似するものと認められる。

(三)  被告らは、「PAOLO GUCCI」(旧第一五類)、「PAOLOGUCCI」(旧第二一類)、「UNO by PAOLO GUCCI」(旧第一六類)等の商標が登録されていることをもって、原告表示と被告標章が類似しないと主張するが、右の商品区分を旧第一五類及び旧第一六類とするものについては、指定商品を同一あるいは類似の商品とする「グッチ」あるいは「GUCCI」の登録商標、同一あるいは類似の商品について使用される「グッチ」あるいは「GUCCI」の周知商標が存在するか否か及びそのことを考慮した上で登録されたものか否か明らかではなく、また旧第二一類のものは、被告らの主張によれば「PAOLOGUCCI」の文字からなる商標であって、被告標章と構成を異にするものであること、しかも仮に特許庁が被告ら主張のとおりの商標登録を認めているとしても、そのことが本件訴訟における原告表示と被告標章の類似性についての当裁判所の判断を拘束するものではないから、被告らの右主張は失当である。

4  右3認定の原告表示と被告標章の類似性、原告商品と被告商品との同一性、類似性、共にそれらファッション性の高い商品の販売の営業を行うもので、共通の需要者、取引者を対象とするものであること、前記二1認定の原告表示の著名性、弁論の全趣旨によって認められるいわゆるブランド商品の中には、同一の業者が、価格帯や予定顧客層によって取扱商品を分化し、差別化を図っているものもある事実によれば、被告会社による被告標章の被告商品への使用は、一般の取引者、需要者において、被告商品は原告グッチオ グッチが製造販売し、原告グッチ ジャパンが我が国において販売した商品であるとの誤認混同を招き、また被告会社による被告標章の営業表示としての使用は、被告会社があたかも原告グッチオ グッチあるいは原告グッチ ジャパンの関連企業又は原告グッチオ グッチから許諾を受けた代理店であるとの誤認混同を生じるおそれがあると認められ、右によれば、原告らは、右の混同により、その営業上の利益を害されるおそれがあるものと認められる。

三  被告らの抗弁について判断する。

1  前記甲第五号証、甲第六号証、成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は、補助参加人がデザインしたり、デザインを選択したりし、その許諾の下に被告標章を付した下請業者に製造させ、それをいくつかの会社を経由して、訴外パウロ・グッチ・ディストリビューターズ・エヌ・ヴェーに販売し、同社が被告会社に販売したものであると認められる。

2  被告会社が、東京地方裁判所の仮処分決定を受けるまで被告標章を被告会社の営業表示として使用していたこと、被告会社が被告商品を販売していたのは、「パオログッチ青山」という名称の店舗であることからすれば、右1の事実にもかかわらず、被告会社は自社の営業表示及び商品表示としても被告標章を使用していたものと認めるのが相当である。

したがって、被告会社は自社の営業表示及び商品表示として被告標章を使用していたものであるところ、被告標章中に含まれる「パオログッチ」あるいは「PAOLO GUCCI」は自然人である補助参加人の氏名であって被告会社の氏名とはいえないから、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法一一条一項二号に該当するものではない。

3  更に、被告会社が平成二年一二月に設立された会社であることは弁論の全趣旨によって認められるところ、被告会社の設立当初からの代表者である被告高城は、被告会社が被告商品の販売を開始した平成三年一一月当時、我が国内で著名となっていた原告表示を、著名な営業表示、商品表示として認識していたものと推認される。また、被告会社が、平成三年一一月二五日、被告標章の使用が原告らの権利を侵害するものである旨の内容証明郵便を原告らから受領したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一七号証によれば、被告会社所有の取引文書ファイル中に、補助参加人が、英国における訴訟で「GUCCI」の名称を使用することを禁じられた旨の一九九〇年(平成二年)一〇月一八日付けのジャパン・タイムスの記事の写しがあったことが認められ、また前記甲第四号証、甲第五号証によれば、被告会社が、各業界取引先に対し送付した平成三年一一月一三日のデビューレセプションの案内状には、「長年にわたり、グッチ社のデザイン・ディレクターをつとめたイタリアのパオログッチ氏。その彼が、自身の感性を表現した新ブランド「PAOLO GUCCI」。」との記載があり、被告会社のプレスリリース(新聞発表)の「挨拶状」と題する文書には、「「パオログッチ」は、グッチをイタリアの名門ファッションハウスとして世界中に紹介し、そのデザイン性とプロダクトコンセプトを高く評価されているパオロ・グッチ氏自身が、フィレンツェの伝統と現代の新しい感性を巧みに調和させ、誕生したブランドです。」、「パオロは二〇年間グッチオ・グッチ社のデザインディレクターとして、コレクション作りに専念し、コーディネイトしてきました。彼の努力は実り、グッチ社はフィレンツェの地味な仕立屋から世界的に有名なファッションハウスに成長しました。」、「日本では、「グッチのアクセサリー、ドレス、ハンドバッグ、財布などすべてはパオロ・グッチのデザイン」という形容詞をつけ加えるほど、パオロ・グッチとそのコレクションを権威のある最高級品として絶賛してきました。」、「パオロ・グッチがデザインしたメンズ、レディースのコレクションのクラッシクでスポーティラインはすばらしい感性のものであり、大変エレガントです。これこそグッチです。」との記載があることが認められる。

右認定の各記載は、補助参加人と原告グッチオ グッチとの関係を強調するものであり、取引先及び一般消費者がこれを読めば、あたかも補助参加人は原告グッチオ グッチと密接な関係があり、補助参加人の製造販売する製品が原告グッチオ グッチが製造販売する原告商品ないしその別のラインであるかのように誤認するおそれがあると認められる。

右認定の各事実に照らせば、被告会社による被告標章の使用について不正の目的がなかったとは言えず、むしろ、補助参加人と原告グッチオ グッチとの関係を強調して、原告グッチオ グッチの著名な標章の顧客吸引力に預かり、原告商標の名声を営業上、利用しようとする意思の下に行われたものと認められるから、不正の目的があるというべきである。

また、前記甲第四号証、甲第五号証、甲第一七号証、原本の存在及び成立について争いのない甲第二〇号証、甲第二一号証の一、二、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第二六号証の一、甲第二七号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、補助参加人は原告グッチオ グッチの創業者グッチオ グッチの孫であり、一九五〇年代から一九七八年頃まで、原告グッチオ グッチあるいはその前身の会社の仕事をしていたこと、補助参加人は、一九八二年頃に原告グッチオ グッチ及びその関係会社との関係を断って後は、「PAOLO GUCCI」の文字を含む商品表示、営業表示を自ら使用し、他に許諾して使用させるようになったが、そのことをめぐり原告グッチオ グッチ及びその関係会社と補助参加人及びその関係会社との間に、世界の種々の国及び地域で訴訟が係属し、米国の連邦地方裁判所で、限られた態様で、補助参加人が自己を製品のデザイナーと表示することを認める判決があった外は、イギリス、イタリア、ドイツ、フランスを含む諸国で「PAOLO GUCCI」の表示の使用を禁止する趣旨の裁判があり、あるいは、使用をしない合意を含む和解が成立したこと、我が国においても、本件原告グッチオ グッチを原告とし、訴外パウロ グッチ ジャパン株式会社及び訴外パウロ グッチ カーサ株式会社を被告とする東京地方裁判所昭和五九年(ウ)第九〇五九号外併合事件において、昭和六一年四月七日右事件被告らは、それぞれすみやかにその商号の変更手続きをする、パウロ グッチ ジャパン株式会社は、一定の時期以降高級被服、ネクタイ、スカーフ、皮製品、ハンドバッグ、かばん類、宝石、装身具等の商品に「パオロ・グッチ」、「PAOLO GUCCI」等の標章を使用しない等の条項を含む訴訟上の和解が成立したが、当時、補助参加人はパウロ グッチ ジャパン株式会社の取締役であったことが認められる。右認定の事実によれば、補助参加人による被告標章の使用は、我が国に輸入された被告商品の関係で不正の目的がなかったとは言えない。

被告標章が補助参加人の商品表示であるとしても、不正競争防止法一一条一項二号の適用はなく、被告の抗弁は失当である。

四1  弁論の全趣旨によれば、被告高城は、被告会社が平成三年一一月一三日に被告商品の販売を開始する際、被告会社の代表者として、被告会社による被告標章が付された被告商品の販売開始を決定し、それを被告会社の社員らに命じたか、少なくともこれを容認したものであると認められる。

原告表示が、原告らの営業表示及び商品表示として著名であり、そのことを右の当時被告高城も認識していたことは、前記三に認定したとおりである。原告表示がこのように著名な標章であることからすれば、被告標章が原告表示に類似するものであることは認識することができ、これに従って、被告会社による被告商品の販売を開始すべきではなかったのに、これを怠り不正競争防止法に反して、原告らの権利を侵害したのであるから、被告高城は、個人としても不正競争防止法四条により、原告らに生じた損害を賠償すべき義務を負うものであり、被告高城と被告会社の右各責任は、不真正連帯債務の関係に立つと認められる。

2  被告高城は、補助参加人パオロ・グッチは、被告高城に対して、被告商品が不正競争防止法や商標法に違反しないことを保証していたことや、同姓のブランドは従来から多数あり、かならずしも共同、提携関係があるわけではないにもかかわらず、問題なく営業活動を行っていること、更に被告商品は、そのデザイナーであるパオロ・グッチの名前を使用した標章を商品につけるもので、同姓のブランドと変わりのないものであるから、パオロ・グッチ名を使用することには何ら問題がないという説明がなされ、十分に説得的であったことなどを根拠に過失がないなどと主張するが、右の事実を認めるに足りる証拠はなく、仮にそのような事実があるとしても、前記四2認定の案内状や新聞発表の挨拶状の文面などに照らせば、少なくとも被告高城は補助参加人の不正競争の目的を容易に知り得たものというべきであるから、右をもって過失がないということはできない。

五1(一) 被告会社が、平成三年一一月一三日から平成四年九月末日までの間に、〈1〉「パオログッチ青山」店で、五四九万五〇八九円相当の被告商品を販売したこと、〈2〉被告会社本社を通じて、国内向け及び国外向け円建てで、一九五四万三九二五円の被告商品を販売したこと、〈3〉国外向けに米国ドル建てで、平成三年三月一七日に二万七四九八ドル、平成四年二月一九日に一万四五五〇ドル、平成四年三月三一日に六四四七ドルの合計四万八四九五ドルの被告商品を販売したことは当事者間に争いがない。

被告らは右〈3〉の米国ドル建てで決済された代金について、一ドル一〇五円で円に換算すべきであると主張するが、右金額は不正競争行為による損害金算定の基礎となる金額であって、原告グッチオ グッチは損害発生の時からの右損害賠償額の支払いを被告らに請求することができるものであるので、右の損害が発生したとき、即ち、被告会社が被告商品をそれぞれ販売した日の国内の米国ドル外国為替相場により換算することも許されるものである。

成立に争いのない甲第三七号証ないし甲第三九号証によれば、三回の被告会社による米国ドル建て販売日当日もしくは当日為替取引きが行われない場合はその直後の取引日における、東京銀行の対顧客米国ドル一ドル当たりの為替相場(円)は、平成三年三月一七日販売分が一三八円八〇銭(同月一八日の相場)、平成四年二月一九日販売分が一二八円七〇銭、平成四年三月三一日販売分が一三三円八五銭であったことが認められる。

右により、前記〈3〉の三回の米国ドル建ての販売金額を円換算すると、順次三八一万六七二二円、一八七万二五八五円、八六万二九三〇円となり(円未満切捨て)、その合計は、六五五万二二三七円である。

したがって、前記〈1〉ないし〈3〉の被告会社による被告商品の販売代金総額は、合計三一五九万一二五一円となる。

(二) 原告らが通常受けるべき金銭を算定するための実施料率は、原告表示の著名性に照らせば、原告らが主張する販売代金の七パーセントを下回るものではないと認められる。

(三) 右(一)、(二)によれば、原告グッチオ グッチが、被告らの販売行為により受けるべき相当実施料相当の損害金は、三一五九万一二五一円の七パーセント相当額である二二一万一三八七円(円未満切捨て)であると認められる。

2  被告会社による被告製品の販売行為により、原告グッチオ グッチが受けた信用毀損を金銭に評価すれば、被告会社による被告商品の販売代金総額、販売期間、販売態様等に照らして、一〇〇万円が相当であると認められ、これを上回る損害を認めるに足りる証拠はない。

3  前記甲第八号証、甲第一六号証の一ないし五、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第三二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは、弁護士である原告代理人らに委任して被告会社を債務者として、当庁平成三年(ヨ)第二五七四号仮処分命令申立事件を提起し、平成四年六月四日、被告標章の被告商品等についての使用、被告営業表示としての使用の差止め、被告標章を付した被告商品の輸入、販売、展示の差止め及び被告商品や取引書類などの執行官保管を命じる等の仮処分命令の発令を受けて、平成四年六月一一日に、東京都港区南青山の被告会社東京オフィスと「パオログッチ青山」店において、同月一二日に大阪市中央区北浜の被告会社本社において、それぞれ右仮処分命令による執行官保管の命令について執行手続きを行ったこと、原告代理人らは、右各手続きの外、証拠保全手続き、本件訴訟手続きを合わせた弁護士報酬として平成三年一一月一二日から平成五年五月三一日までの間に合計二八二二万六〇〇〇円、コピー代、通信費用を含む事務所経費として合計三五〇万四〇四四円を原告グッチオ グッチに請求したことが認められる。

右認定事実に、本件において現れた本件事案の内容、審理の経過、訴訟の結果、原告グッチオ グッチが外国法人で打合わせ、連絡に能力、費用を要することその他諸般の事情に照らせば、原告グッチオグッチの支出する仮処分及び本案訴訟追行の弁護士費用のうち、被告らの不正競争行為と相当因果関係を有するものは、金三〇〇万円と認められる。

原告グッチオ グッチは弁護士事務所で要した費用三五〇万四〇四四円も被告らの行為による損害である旨主張する。

右認定のとおり原告代理人らから原告グッチオ グッチに対し、前記各手続きについてのコピー代、通信費用を含む経費として三五〇万四〇四四円が請求されたものであるが、それ以上に具体的な経費の内訳を認めるに足りる証拠はなく、仮にそのとおりの経費が発生したものとしても、通常の外国の依頼人の代理人としての業務に要する経費の域を出るものとは認められないから、これを含めて前記弁護士費用中、不正競争行為と相当因果関係を有するものを認定したものであり、それとは別に経費を損害と認めることを相当とする事情を認めるに足りる証拠はない。

4  原告グッチオ グッチは、被告標章と原告表示の混同性の調査費用として、九六八万九二一〇円を支出しているとして、その賠償を求める。

弁論の全趣旨により成立を認める甲第九号証、甲第一〇号証、甲第一四号証の一、二によれば、原告ら代理人は、訴外株式会社電通PRセンターに依頼して、「グッチ」と「パオログッチ」ないし「DESIGNED BY PAOLO GUCCI」(被告標章(6))との混同性に関する消費者調査を二回にわたって行い、その調査報酬として平成四年四月と五月の二回に分けて合計九六八万九二一〇円を右訴外会社に支払ったことが認められる。

しかしながら、原告表示と被告標章との混同の事実を立証するために、右の各調査が必須のものであったとは認め難いから、調査に伴なう支出が被告らの本件不正競争行為ないし商標権侵害行為と相当因果関係があるものとまでは認めるに足りない。

5  よって、原告グッチオ グッチの損害賠償は、右1ないし3の合計の六二一万一三八七円の限度で認められるが、これを越える部分は認められない。

六1  前記甲第五号証、甲第六号証、原本の存在及び成立について当事者間に争いがない甲第一一号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一四号証の三、四並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社は、平成三年一一月一五日、繊研新聞にほぼ三分の一面大の広告を掲載し、「パオログッチ青山」店の開店を宣伝したこと、原告グッチ ジャパンは、株式会社電通に依頼して、これに対抗する新聞広告を掲載することとし、原稿の製作を依頼すると共に、製作された原稿により、同月二二日、日本経済新聞全国版、前記繊研新聞、日本繊維新聞の三紙に「グッチ」商品と「パオログッチ」商品の間に何ら関係がないことを内容とする広告を掲載したこと、右の代金として、原告グッチ ジャパンは、株式会社電通に、原稿製作費として九万九八○○円、日本経済新聞の掲載料として、一三八万円、繊研新聞の掲載料として二二万五〇〇〇円、日本繊維新聞の掲載料として二〇万円とこれらに対する消費税を、それぞれ支払ったことが認められる。

右事実によれば、原告グッチ ジャパンが、被告会社の広告が掲載された繊研新聞に広告を掲載した行為については、被告会社の不正競争行為のための宣伝に対抗するために必要であったと認められるが、それ以外のものについては、その必要性を直ちに認めることができないから、被告会社の不正競争行為との因果関係を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうしてみると、原告グッチ ジャパン主張の広告費用の内、原稿製作費九万九八○○円と繊研新聞の掲載料二二万五〇〇〇円の合計額三二万四八○○円に三パーセントの消費税を加えた三三万四五四四円の限度では、被告会社の不正競争行為による原告グッチ ジャパンの損害と認められるが、その余は認められない。

2  原告グッチ ジャパンは、被告会社の不正競争行為によってその営業上の信用を毀損されたと主張し、それによる損害として一〇〇〇万円の賠償を求める。

しかしながら、被告らの不正競争行為及び商標権侵害行為により原告グッチオ グッチに生じた信用毀損についての損害賠償金額は、前記五2に認定したとおりであるところ、本件全証拠によっても、原告グッチオ グッチに生じた信用毀損損害に対する賠償をもってしても償われない、原告グッチオ グッチの損害とは別個の、独自の信用毀損による損害が原告グッチ ジャパンにも生じたことは認められない。

3  よって、原告グッチ ジャパンの損害額は右1の三三万四五四四円の限度で認められる。

七  以上によれば、原告らの本訴請求中、不正競争防止法に基づく請求は、主文1のとおり被告標章を被告商品等に使用することの差止め、主文2のとおり右被告標章を使用した被告商品を輸入し、販売することなどの差止め、主文3のとおり被告標章を営業表示として使用することの差止め、主文4のとおり被告標章を使用した被告商品等の廃棄、主文5のとおり被告らが連帯して、原告グッチオ グッチに対し金六二一万一三八七円、原告グッチ ジャパンに対し金三三万四五四四円の各損害賠償及びこれらに対する平成四年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、金銭請求中右認容額を越える部分は、商標権侵害による損害賠償としても、商法二六六条の三に基づく請求としても認めることはできず、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、九四条後段を、仮執行宣言について、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 櫻林正己)

標章目録

〈省略〉

標章目録

〈省略〉

標章目録

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〈省略〉

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標章目録

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商品目録

毛皮類(毛皮コート、毛皮えり巻、毛皮帽子、毛皮手袋等)

レザー類(皮革製ないし人工皮革製のハンドバッグ、ボストンバッグ、アタッシュ、ケース、旅行かばん、化粧品バッグ、ビジネス・バッグ、財布、札入れ、キーホルダー、ベルト等)

コスチューム・ジュエリー(イヤリング、ネックレス、カフス、ブレスレット、ブローチ等)

時計類

ボンチャイナ類(ティーカップ、コーヒーカップ等)

洋酒類(コニャック等)

スカーフ、ネクタイ類

商標目録

一 商標登録 第一五九四七七一号

出願番号 五四-〇五〇三四二

出願公告番号 五七-〇五八九四六

商品区分及び

指定商品 第一三類(手動利器、手動工具、金具)(ただし、平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表商品区分。以下この商標目録について同じ。)

登録年月日 昭和五八年六月三〇日

更新登録年月日 平成五年一一月二九日

(商標の構成)

〈省略〉

二 商標登録 第一九六四二五三号

出願番号 五四-〇八五四〇三

出願公告番号 六一-〇九四〇〇五

商品区分及び

指定商品 第一七類(被服、布製見回品、寝具類)

登録年月日 昭和六二年六月一六日

(商標の構成)

〈省略〉

三 商標登録 第一八五六一三九号

出願番号 五四-○八五四〇四

出願公告番号 六〇-〇六六一八八

商品区分及び

指定商品 第二一類(装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具)

登録年月日 昭和六一年四月二三日

(商標の構成)

〈省略〉

四 商標登録 第一五四五四三九号

出願番号 五四-〇八五四〇六

出願公告番号 五七-〇〇〇五五二

商品区分及び

指定商品 第二三類(時計、眼鏡、これらの部品及び附属品)

登録年月日 昭和五七年一〇月二七日

更新登録年月日 平成四年一二月二四日

(商標の構成)

〈省略〉

五 商標登録 第一八四六七八一号

出願番号 五七-〇七二三七六

出願公告番号 六〇-〇五一五八四

商品区分及び

指定商品 第二三類(時計、眼鏡、これらの部品および附属品)

登録年月日 昭和六一年三月二六日

(商標の構成)

〈省略〉

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